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井沢 元彦

逆説の日本史 14 近世爛熟編文治政治と忠臣蔵の謎 単行本 – 2007/6/28
「吉良は悪い老人、浅野は世間知らずだが良い若者」というのが世間の常識です。著者はそれを否定します。どうしてもエンターティメントと現実が同じと混同させられているのが私たちの常識のようです。いくつか反証していますが、少し出します。
エンターティメントでは浅野は朝廷から使者を接待する役目を仰せつかり吉良から指南を受ける立場で吉良からうそを教えられて恥かいたので恨みに思って刃傷沙汰に発展という筋書きです。実際に吉良と浅野の関係はその通りです。ただし、浅野はその役目は初めてではなく以前にもやったことがあり知識があるのが普通です。また、浅野が失敗するとその責任は指南役であり上役の吉良に向いてきます。そのような状況で吉良がうそを教えて恥をかかせるなんてことは普通ないでしょう。
エンターティメントでは浅野は吉良を正面から切りつけますが、実際には歩いている後ろから切りつけます。後ろから切りつけるというのは今も昔もひきょうな手段で誇りを大事にする武士にはあるまじき行為です。著者は浅野の乱心を疑っています。乱心の可能性がありえる事実も列挙しています。
また、家臣も全く抵抗せずに静かに城・領地を明け渡しています。その点が家臣から見てもこの事件は「うちの殿が悪いんだよなー」という意識がありそうです。無念な事件であれば尊厳を大事にする家臣は仇討ちなどせずに城明け渡し時に幕府に抵抗する方が筋が通っています。たしかにそうかな。
仇討ちといっても、別に吉良に殿を殺されたわけではありません。殿は切腹です。文句があれば裁定を下した幕府・綱吉に抵抗するのが筋です。
作者の考えは、「事件は殿が悪いんだけれども、それでも殿は殿、殿は吉良を殺したかったのに殺せなかった。だからかわりに吉良を殺す。吉良が悪いか良いかは関係ない」という趣旨のようです。当時は朱子学の影響で「悪い天子も天子、悪い天子に忠義を尽くすのが本当の忠臣」というような思想があったそうです。中々難しいですね。割を食ったのは吉良上野介かもしれません。
逆説の日本史 14 近世爛熟編文治政治と忠臣蔵の謎 単行本 – 2007/6/28
説明
忠臣蔵の虚構と真実を解き明かす!日本史の常識を覆す全日本人必読の新・日本史!
歴史上の事実である「赤穂事件」はどのようにして「忠臣蔵」という「虚構のタイトル」で呼ばれるようになったのか? 「吉良の浅野イジメが作り話なのは会社員の接待の常識からもわかる」「最も基本的な史料である浅野内匠頭の辞世すら最初からなかった」「吉良邸に討ち入った四十七士に死者、重傷者がひとりも出なかったのはなぜか」など、従来の「常識」に真っ向から異を唱える意欲作。江戸庶民の喝采を浴びた赤穂事件の真実に迫る――
目次
第1章 忠臣蔵、その虚構と真実編
第2章 将軍と御用人システム編
第3章 大坂・江戸 大商人の世界編
第4章 江戸時代の東アジア外交I――明と日本編
第5章 江戸時代の東アジア外交II――琉球王国と日本編
井沢 元彦
昭和29年、名古屋市生まれ。早大法学部卒。TBS入社後、報道局放送記者時代『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞受賞。その後退社し執筆活動に専念。歴史推理・ノンフィクションに独自の世界を開拓
