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田口 善弘

知能とはなにか ヒトとAIのあいだ (講談社現代新書 2763) 新書
人工知能は完成されるのか?人間の知能を超えるのか?
など人工知能界隈ではいろいろな意見・疑問が出ています。私はある不思議を持っていましたが、この本でその疑問が少し解けました。
人間の脳の解説でよく目にするのが神経系の電気信号伝達です。「神経細胞のシナプスから物質が分泌され情報が伝達される」「電気信号が伝達される」コンピュータなどの仕組みと似通った仕組みです。それはわかるのですが、「われ思う。故に我あり。」までの飛躍はどこにあるのかな?とずーと思ってました。AI関連の本を読むといわゆる情報処理の仕組みが進化するにしたがってその情報処理過程でなんとなく意識が芽生える的な話が出てきます。それを読むと「なるほど、俺たちが意識と思って自分で考えているというのは幻で情報処理を沢山することで意識があると勘違いしているのか」と思っていました。
著者は「人間の知能の仕組みは解明されていない。仕組みがわからないのに同じものを作ることはできない。」と明確に断言してます。そりゃそうだと思いました。人間と同じ情報処理の結果を出すコンピュータの仕組みは可能でインプットに対してアウトプットが同じ、またはそれ以上だったら、利用価値があり、それを2025年ころには「人工知能」と呼ぶ。ということには同意です。
子供のころから疑問だったのは、人間は知らないことを知ることができないのに、なぜ発明というもがあるのだろうということです。知っていることの組み合わせを変えることで知らないことを作ることは可能ですが、それ以外にはないんじゃないかと思っていました。そのため、知識=知っていることを増やす努力があるのかなと思っていました。「急にアイデアがわいてきた」「神の思し召し」みたいなことは錯覚だと思っていました。今も思っています。
やっぱり「自我」も錯覚かな?
そうだとすると、情報処理能力が高まることで「われ思う。故に我あり。」という錯覚を起こすことが「自我」ということになります。
別にそれでもかまわないんですけど、私が死ぬまでにその辺は解明されるのかな~
知能とはなにか ヒトとAIのあいだ (講談社現代新書 2763) 新書
説明
「AIは人類を上回る知能を持つか?」
「シンギュラリティは起きるのか」。
今世紀最大の論点に機械学習に精通した物理学者が挑む
チャットGPTに代表される生成AIは、機能を限定されることなく、幅広い学習ができる汎用性を持っている、そのため、将来、AIが何を学ぶかを人間が制御できなくなってしまう危険は否定できない。しかし、だからといって、AIが自我や意識を獲得し、自発的に行動して、人類を排除したり、抹殺したりするようになるだろうか。この命題については、著者はそのような恐れはないと主張する。少なくとも、現在の生成AIの延長線上には、人類に匹敵する知能と自我を持つ人工知能が誕生することはない、というのだ。
その理由は、知能という言葉で一括りされているが、人工知能と私たち人類の持つ知能とは似て非なるものであるからだ。
実は、私たちは「そもそも知能とはなにか」ということですら満足に答えることができずにいる。そこで、本書では、曖昧模糊とした「知能」を再定義し、人工知能と私たち人類が持つ「脳」という臓器が生み出す「ヒトの知能」との共通点と相違点を整理したうえで、自律的なAIが自己フィードバックによる改良を繰り返すことによって、人間を上回る知能が誕生するという「シンギュラリティ」(技術的特異点)に達するという仮説の妥当性を論じていく。
生成AIをめぐる混沌とした状況を物理学者が鮮やかに読み解く
本書の内容
はじめに
第0章 生成AI狂騒曲
第1章 過去の知能研究
第2章 深層学習から生成AIへ
第3章 脳の機能としての「知能」
第4章 ニューロンの集合体としての脳
第5章 世界のシミュレーターとしての生成AI
第6章 なぜ人間の脳は少ないサンプルで学習できるのか?
第7章 古典力学はまがい物?
第8章 知能研究の今後
第9章 非線形系非平衡多自由度系と生成AI
田口 善弘(たぐち よしひろ)
1961年、東京生まれ。中央大学理工学部教授。1995年に執筆した『砂時計の七不思議―粉粒体の動力学』 (中公新書)で第12回(1996年) 講談社科学出版賞受賞。その後、機械学習などを応用したバイオインフォマティクスの研究を行う。スタンフォード大学とエルゼビア社による「世界で最も影響力のある研究者トップ2%」に2021年度から2023年度まで4年連続で選ばれた(分野はバイオインフォマティクス)。最近はテンソル分解の研究に嵌まっており、その成果を2019年9月にシュプリンガー社から英語の専門書(単著)として出版した。『生命はデジタルでできている』『はじめての機械学習』(講談社ブルーバックス) 、『学び直し高校物理』(講談社現代新書)